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日々揚げ足をとって生きていく

不定期に揚げ足をとっていきます

致命的な誤訳と地味な誤訳(「感動的な経験をすることで将来の記憶形成が強化される~」、「優れた写真を撮影するためのポイント~」)

GIGAZINE

gigazine.net

 感動的な経験をすることで将来の記憶形成が強化される、ってどうやって調べたんだ。

新しい発見を見つけ出すため、研究者たちはfMRIを用いた調査を行いました。被験者を3つのグループに分け、ひとつのグループには23分間の「感動的な刺激」を与え、9分間の休憩を挟んだのち、「感動的な中性刺激」を23分間与えたそうです。2つ目のグループではひとつ目のグループとは「感動的な刺激」と「感動的な中性刺激」を与える順番を逆に、3つ目のグループでは間の休憩時間を9分から23分に伸ばしました。

 なんとこの科学者たちは人為的に被験者を感動させることができたらしい。というのは冗談で、っていうかもはや「感動的な中性刺激」というフレーズが出てきている段階で訳がおかしいことは目に見えている。わざわざ論文の内容に立ち入るまでもなく、原文(Emotions drive stronger memories of later, unemotional events | Ars Technica)で「感動的な刺激」に相当するのは“emotional stimuli”であって、「感動的な中性刺激」は“emotionally neutral stimuli”だ。凄い! とか脱帽! とかいった激しい感情としての「感動」ではなくて、「哀しい」「楽しい」あるいは「快」「不快」といったレベルの「感情」の話だ。訳した人は「感動的な中性刺激」という意味不明な日本語を書きながらなんとも思わなかったのだろうか。それに比較対象なんだからそっちまで感動的じゃおかしい。ふつう、「感情的に中立な刺激」と訳すだろう。

 この研究結果は、感情というのは単に刺激に付随してあらわれる現象ではなくて、その後の記憶形成を強化する役割を果たしている、という話だ。それがGIGAZINEの書き方だと、「感動すると脳にいい」みたいなきわめて粗雑な議論に見えてしまう。ほんとに記事の内容を理解していないんだなぁとしみじみしてしまう。

 もうひとつ、これは別に取り上げるほどのことじゃないのだが、優れた写真を撮影するためのポイント「DIET」をプロの写真家が解説 - GIGAZINEという記事からひとつ。

優れた写真は「ほんの一瞬で撮影されたもののはずがない」という強い印象を見る側に与えるそうで、そのために必要なポイントが「TIMING(タイミング)」だそうです。

 これ、最大限好意的に読めば、「何気なく撮影されたように見えるが、周到に準備されているに違いないという印象を見る側に与える」みたいなことを言っているように思えなくもない。けどこの書き方じゃ、長時間露光とかそういう話のようにも読めてしまう。結論を言うと、どっちも微妙に間違っている。原文(というか原動画)でここに相当するのは1分45秒くらいからのシーケンスだけれど、そこで言われているのは“a great photograph can give the impression that it could not have been taken a split second before or after”ということ。すなわち、「偉大な写真はほんの一瞬でも前や後になったら撮りえなかったかのような印象を与える」という、いわゆる「決定的瞬間」の話をしている。別になんとなく聞き流してわかった気になっちゃうことは責めないが(自分もそういうことはままある)、わざわざ訳して伝えるならもうちょっと原文に誠実に訳してほしい。マジで。