日々揚げ足をとって生きていく

不定期に揚げ足をとっていきます

気持ちはわかるがそんなわけねぇだろ! 科学実験の写真集

 WIREDに珍訳があった。

wired.jp

スキナーは科学に関する経歴が自身にないことを認めた最初の人物だ

 そんなわけねーだろ! 科学を学んだ経験がないことを認めている人間なんか星の数ほどおるがな。しかし、原文が原文なのだった。

www.wired.com

Skinner is the first to admit she doesn’t have a background in science

 直訳したらそうなるよね。手持ちの英和辞典には見当たらなかったが、ODEをひいてみたら“the most pressing, likely, or suitable”の意で“the first to do”を用いる例がひかれている。つまり、「スキナーは科学のバックグラウンドを持っていないことをきっぱり認めるだろう」とか「喜んで認めるだろう」といったニュアンスか。ODEに頼らずとも、WIREDの訳は端的に偽なので、たとえば(原文を読んで最初に僕が考えたように)“the last person to do”「もっとも~しそうにない人物」といったイディオムから連想することで、「もっとも~しそうな人物」という訳文は思いつきそうなものだ。あとは根性で辞書ひいて用例があったらめっけもん、だが、辞書引いて辿りつかなかった可能性はある。それにしても嘘ついてしまう訳文になってはいけないのではないか…

 ついでにいうと、上の文につづくかっこの中身もちょっと微妙。

CERNの粒子加速器に関する詩を書いてグッゲンハイムの助成金を獲得した彼女の父親も経歴はない)

 原文では“(neither does her father, who won a Guggenheim grant to write poetry about CERN’s particle accelerator)”と関係代名詞の非制限用法が使われているのに、これじゃまるで制限用法のようだ。ニュアンスがまるで違う。しいていえば「彼女の父親も科学のバックグラウンドはないが、CERNの粒子加速器に関する詩を書いてグッゲンハイムの助成金を獲得したことはある」としたほうがいいような気がする。

 なんか写真のキャプションもびみょー。二重振り子のカオス運動を収めた写真には「木製の2つの振り子につけられたLEDライトはカオス理論を描き出している」というキャプションがついているが、illustrateを「描き出す」というのは、ちょっと正確さに欠けるのでは? 二重振り子の運動は、カオス理論を「図示している」と言ったほうがいいだろう。の「火をつける前に、食器用洗剤と軽い液体、水の溶液の中に手を入れなさい。」という文章のぎこちなさは別にいいとしても、lighter fluidを「軽い液体」としているのはよろしくない。ライター用のオイルのことだろう(参考:Lighter fluid - Wikipedia)。水蒸気で雲をつくる実験については、「スキナーはケンタッキー州のほぼ湿度100%の夏の日が来るのを待っていたので、雲は長く残っただろう。」というのは因果関係が逆というか、原文*1を読めばわかるとおり、「煙がより長くとどまるように、スキナーは湿度がほぼ100%になるケンタッキーの夏の日を待った」のだ。“so that”のニュアンスがぜんぜんとれていない。プリズムによる分光を捉えた写真のキャプションには「[複数の]色の白い光への分離」とあるが、分光という現象は白い光を虹色のスペクトルに分散させることであって、この訳文ではまるで逆だ(原文も“The separate of white light into these colors”となっている。)

 以上、WIRED上ではまれに見るレベルのひどい翻訳だった。